迅速な下山の手段を考える・その1

山を登るようになって約5年。普段から「1日でどれだけ密度の高い山行ができるか」を常に模索している。
自分だけに限らず、社会人に休日は限られているわけで、おいそれと泊まり登山に出かけるわけにはいかない。限られた時間のなか、どれだけ有意義に過ごせるのか――そう、時間は貴重なのだ。

深夜に自家用車で移動し、夜明けとともに行動を開始すれば飛躍的に時間は延びるものの、車は必ず回収しなければならない=出発地点に戻らなければならない、という足かせがある。それに車は、帰路も運転しなきゃならないわけで…またそこから高速道路や渋滞のなかに突撃せねばならないのだとすれば、疲労を考えるとそれだけで不安だ(本当は下山後の一杯がやれないというのが一番のネックなんだけどね、個人的には)。そんないくつかの理由から、自分は基本的に移動は「公共交通機関」派だ。

話がそれたが、社会人であれば基本の休みは土日。しかし土日2日ぶんまるまる使える機会もそうそうない。だから基本は日帰り登山。日帰り登山でも、やっぱりいろんなところに行きたいわけで…一般的には「日帰りは厳しい」とされるような山、コースでも「なんとか日帰りに収める」努力をしたいのだ。

どうすべきか。
まずは「足を早くする」こと。コースタイム以上のパフォーマンスが出せるよう、自らを鍛え上げていくこと。これはもっとも重要なことだと思う。しかしながら、加齢とともに体力は落ちていくし、トレーニングの成果だってすぐに出るわけじゃない。先を見据えて地道にやっていって、結果として早くなるんであって…ただちにここに過度の期待は出来ない。

ならば、どうすべきか。
何度か山行に行くと、気づくことがある。ピークハントを終えたあとの下山。山から降り、公共交通機関に乗るまでに、長い林道歩きを強いられる。舗装されていたり、されていなかったり…状況はさまざまだが、たいていの場合、だるい。登山道のそれと比べれば、およそ起伏のない下りが延々と続くのだ。
運良く、登山道を下り終えて登山口につき、そこにバス停があったとしよう。しかして夕方のバスはよくて1時間に1本。それも最終バスが16時。そんな経験はザラにある。あと30分、バスの時間が遅ければ…もうひとつピークを制覇できたのに。そんな状況に出会ったことはないだろうか。
そして、たいていの場合、必死に間に合わせた数少ないバスは、延々と「道路を下っていく」のみだ。

実にくだらない、くだらないのだ。
淡々と下っているだけなのが、実にくだらない。
林道を下る怠惰な1時間を、バスを待つ怠惰な1時間を短縮できたらどんなにいいだろう。そう考えた。


結論。
自転車で下ればいいじゃない!
幸いなことに、自分はCARRY ME IIという8インチの折り畳み自転車を持っている。これは自転車の中では8kg台の重量と、ほぼ最軽量に近いカテゴリに属する。これならば、ザックとは別に混んでいる登山バスに持ち込んでも、なんとかヒザの上に載せられる大きさだ。
時は2010年、自転車利用の山行を決行するのであった。

乾徳山に登ったとき、バスで下車した乾徳山登山口に自転車を組立ててデポ。そのまま山頂をピストンし、降りてきた。帰りはバスには乗らず、このまま西沢渓谷から塩山駅までの果てしない下り坂を、この自転車で下っていった。

両神山のときも、同じように自転車をバスに持ち込んだ。両神山は、登山口の日向大谷口までは秩父からバスを2本乗り継がなければならないという手間のかかる移動。それゆえに帰りのバスの本数もかなりやばい感じ。乾徳山同様、日向大谷口にデポして、温泉に立ち寄りつつ、バスの乗り継ぎポイントである小鹿野町役場前まではこれで移動した。温泉でのんびりしすぎて、あやうく秩父行きの最終バスに乗り遅れそうになったのも今はいい思い出だ。


そして瑞牆山韮崎駅からのバスは最速でも朝10時頃に到着。そこから登りはじめるのだから当然時間はない。しかも瑞牆山荘前からのバスは帰りも皆無。もうちょっと下ったところにある増富温泉からなら、かなりたくさんバスがあるんだが…ということで、やっぱりこれも登山口にデポして山頂ピストン。しかしながら極小径車の貧弱なブレーキでは、10%の下りはなかなかにスリリングでありました。

そんなこんなで、極小径車での下山は一定の成果をあげてはいた。
しかし問題も感じた。つまるところ「ピストンしかできない」のだ。さすがに輪行袋に入った自転車を担いで山登りをするわけにはいかない。結局は車と同じく、スタート地点に戻ってこないといけない。自分の足とプラスアルファ、かつ公共交通機関のみを使って山行を果たすという意味では成功しているが、どうにも腑に落ちないものがある。

これはこれで「自転車利用メソッド」としてひとつ確立したとして、ピストンしないルートでも速やかに下山ができるような…もっと、他のいい方法はないものだろうか。


「その2」につづく。